うすぼんやり日記
ZABADAK吉良知彦のブログです。
タルカス
はたちになるまえくらいかな、突然ノルウェーに行ってしまった従姉妹のあっちゃんのはなし。
あっちゃんとは物心ついた頃からいっしょだった。
もちろん名古屋と山梨で離れていたからたまにしか会わなかったけど、
会えばすぐに子猫同士のようにじゃれあっていた。
あっちゃんはいつもおれの一歩先を歩いてる感じだった。
あっちゃんのすることはなんだってカッコいいのだ。
ほかの従兄弟たちもみんなあっちゃんのことが大好きだった。
中学から高校へ進む頃に僕は音楽にのめり込み、
友人に勧められるままツェッペリンやイエスやバットカンパニーや
バックマンターナーオーバードライブなどを校内バンドで演奏することに夢中になっていた。
マイク・オールドフィールドみたいなひとり音楽も始めていたけど、メインはバンド。
バンド名もつけて校外での演奏等もしていた。
バンド合戦で地区優勝等もした。
それなりにいけてた、ようにも思う。
その頃会うあっちゃんはやっぱりおれの一歩先を歩いていて
「バンドやってんだ、よかったじゃん」などと良いながらまだ流行りだしもしていない
スケートボードに夢中なのだ。
「みててみ!」と坂道でコンテンポラリータンとか決めるあっちゃんがもう、
まぶしくってたまらなかった。
名古屋の田舎の高校生より山梨の田舎の大学一年生のがはるかに先をいってる。
東京のことはまだ知らない。
名古屋に戻って小遣いでしょぼいスケボー買って坂道でころんで怪我したりするうち、
なんか何かいらいらするのだ。
こんなことしてる場合じゃない感だけがつのる。
おれの場所はここじゃない感もそれにくわわる。
バンドも本気にはなれなくなって来ていた。
そして、やみくもに家を出る。まさにやみくも。
家出なんだけど、しばらく中央線に乗った後、公衆電話から
「ちょっといえでするんで、よろしく」「まあ、それもいいわね(母)」
の会話が成り立つくらいには穏やかな家出ではあった。
行き先はもちろんあっちゃんのとこ。
なんの連絡もしないまま山梨の駅に着き「来ちゃったんだけど」と電話した。
拒絶されたら死んでしまおう、くらいにはさすがに考えてたと思う。
「そう、じゃあ、○番のバスに乗っておいで、待ってるから」
とものすごくあっけなくおれは受け入れられた。
あっちゃんの親に気づかれぬよう離れにあったあっちゃんのへやに忍び込んだ。
しばらく、こうなったいきさつを語り、
これも一歩先行くあっちゃんに教えられたものだけどタバコをすったりしてようやく落ち着いた。
これまでのことこれからのこといろいろ話してる時間がものとても速く過ぎていく。そして、
「トコ、これきいてみ」とターンテーブルにあっちゃんはLPを載せて針を置いた。
聴いたことのない音楽だった。ものすごいリズム、ものすごいコード進行、そしてものすごく長い!
タルカスだった。
EL&Pはトリロジーをそれまでに聴いて知ってはいたけど比較にならない衝撃を受けた。
そのあと出たばっかりのクイーンやちょい前のクリムゾンの宮殿なんかも聴いたんだと思うけど、
はじめの衝撃が大きすぎてよく覚えていない。
あっちゃんのお父さんはさばさばしたひとで、
僕が家出して自分の娘のあっちゃんのとこにおれが来たことにきづいても、
「まあ、こっち来て飯食え」なんて言う。
そして一升瓶に入った葡萄酒(当時の山梨のひとはワインとは言わなかった)を持って来て湯のみにどばどばついで、まあ飲め、などと豪快なんである。
妹(おれの母)には内緒にしといてやる、ゆっくりして、落ち着いたら帰れ。
とだけ言って、あとはくだらない話ばかりしておれも酔っぱらいながら聞いていた。
名古屋でものすごくいらついていたココロがふにゃーっとほぐれていった。
そのあとあっちゃんの部屋で飽くことなくいろんな話を延々続け、東の空が明るくなりはじめた。
大菩薩峠につづく山の稜線がくっきりしてくるのがうらめしかった。
でも、もう名古屋に帰れる、と思った。
おれのいらいらの原因は進路の問題だった。
音楽をやってみたいと思うおれとそんな夢みたいなバカなはなしがあるか、
と相手にしない親との衝突が原因だった。思えばわかりやすい。
そしてもう、その朝おれの腹は決まってた。
新しい知らないロック聴いてこんな面白いことやらないでなんの人生か、
みたいな覚悟めいたものがもう出来ていた。始発のバスで帰ることにした。
バス停まで送ってくれたあっちゃんが「これ、持っていきな」って渡してくれたのが、
むき出しのタルカス。
気の利いた袋に入れて、などしないのもあっちゃんだ。
「ありがと」だけ言った。次会うときは東京で、ってすごく思ってたけどいえなかった。
結局その年の受験はことごとく失敗し、
あっちゃんと東京で会えるのは2年後になるので言わなくて良かった。
あっさりした感じで見送られ、中央線にゆられてぼくは名古屋に帰った。
ずっとむき出しのタルカスを胸に抱えていたので異様な高校生にみられたか、とは思う。
何事もなかったように迎えてくれた母、今にして思えば兄から全ての話は聴いていたのだと思う。
それから心機一転受験にむけて勉強をはじめたかと言うと、そういうことはなく、
グレッグ・レイクのアコギをコピーすることからはじめた。
迷いは消えていた。いらいらも消えていた。
だけどそこからの道のりはその時思い描いていたものとはずいぶん違うことになるのだけど、
その話はまた別の機会に。
2014/09/08(月) 01:58:32
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